コラム

天井スピーカから隣の部屋の音が聞こえる?

2011.6.20

ある文化施設の音楽練習室で、天井のスピーカから隣の練習室の演奏音が聞こえてくる、という連絡を受けて現場調査に同席しました。

早速、練習室Aにあるドラムセットを叩いてもらい、隣の練習室Bで耳を澄ますと、確かに天井スピーカからドラムの音が聞こえてきます。

音の大きさを測ってみると、練習室A内でのドラム演奏音は103 dBで、練習室Bのスピーカからの音はスピーカから30cmの距離で39 dBでした (ともに騒音レベル※1)。システム的には考えられない大きさで、しかもクリアに聞こえます。練習室Bの暗騒音※2は25 dB未満※3なので、静かな時には聞こえて、しかも音質的に気付きやすいと言えます。

音が伝わる原理は、練習室Aのスピーカ(スピーカAとします)がマイクになって起電し、それが練習室Bのスピーカ(スピーカBとします)に伝わり再生されたと考えられます。
一見別物のマイクとスピーカですが、音と電気を変換する装置としてはどちらも仕組みは同じなので、スピーカがマイクになり得ます。(糸電話を思い出して下さい。)

しかし、スピーカの音→電気の変換効率はマイクよりずっと低いですし、通常、未放送時はスピーカ回線がアンプ側でショートされるので、これ程の音量を再生できるだけの電圧が隣のスピーカにかかるはずはありません。よって、きちんとショートされていない可能性があります。

そこでスピーカBでアンプ側の線路抵抗を測ると約200Ωと高く、試しに近くのEPS内で同系統の回線をショートさせても変化なしでした。これはおかしいということで、今度はスピーカAで同じく線路抵抗を測るとこちらも約200Ω。これらより、練習室の天井スピーカ系統の最初の1台にあたる、控室のスピーカに異常が疑われました。

アンプからのスピーカ回線は控室の天井裏で2系統に分岐しており、そのうちの1つが控室の天井スピーカを経て練習室に繋がっていました。このスピーカを外して確認すると、ビンゴ! スピーカの接続が間違っていました。

天井スピーカを取り出したところ

接続を直した後は各スピーカの線路抵抗も数Ωに下がり、スピーカBに耳を近づけてもドラム音は全く聞こえない状態に回復しました。

この控室は、実は最近、改修工事が行われ、天井スピーカをいったん取り外したとのことなので、その再取付の際に接続を間違ったようです。また、再取付後の確認を、控室と同系統である練習室のスピーカまで含めて実施していれば問題を発見できたでしょうが、そこまでは気付かなかったのでしょう。

たった1台のスピーカの誤接続が、”別”の部屋で”音漏れ”という異種の現象を起こす・・・・全ては小さな事の積み重ねだと、関係者一同、大きな経験になりました。

実は、類似の現象が色々な施設で思ったよりもしばしば発生しているようです。その全ての原因が誤配線とは限りませんが、今回のケースがひとつの事例として参考になればと思い、ここに載せておきます。

※1 騒音レベル: 人の感覚を考慮した音の大きさを表す尺度で、A特性音圧レベルとも言う。単位はデシベル(dB)
※2 暗騒音: 目的音(ここではスピーカからの音)以外のその場の騒音のこと。
※3 25dB未満: 音圧レベル計(騒音計)が騒音レベルを25dBまでしか測れないのでこう表現しています。


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